医者の聴きたいことと、患者の言いたいことにはズレがある

診察の場面で、医者の聴きたいことと、患者さんの言いたいことが食い違うことがあります。本当は、患者さんの話にじっくり耳を傾けるべきなのですが、何しろ医者は忙しい。短時間で、診断と治療に必要なことを要領よく聞き出そうとします。それに対して患者さんは、自分の症状や周辺のエピソードを詳しく話したがります。ここにちょっとしたズレが生じるのです。

例えば、「胸が痛い」という症状があったとき、医者はいくつかの鑑別診断を頭に思い浮かべながら問診を取ります。心筋梗塞狭心症、大動脈解離、肺塞栓症、・・・その他(実は「胸痛」を訴えるのに何も病気は見つからないもしくは「ない」、ということも非常に多いのですが)。

これらを鑑別するのに必要な情報は、その症状はいつからあるのか、どんなとき起こるか(安静時か、運動した時か)、痛みの部位(広範囲か限局性か)、痛みの性状(締め付けられるような痛みか、鋭い痛みか、呼吸と連動するかしないか等)、持続時間(一瞬なのか、5-10分なのか、持続性なのか)などです。ところが、聞こうとしたことになかなか答えてくれない患者さんが多い。

特に「いつからその症状があったのですか?」にきちんと答えてくれる患者さんはめったにいません。「いつからですか?」→「まあ、そんな前ではないですけどね。」→「1週間くらいですか?」→「そんなひどい痛みじゃないんですけどね。」→「じゃあ、1か月前からですか?」→「たいしたことないんだけど、妻が病院いけってうるさいもんだから。」→(おい、質問に答えてくれよ)

このあと、誘因や痛みの部位、性状や持続時間などを次々に聞き出さなければならない医者としては、ここでまずちょっと折れかかります。

まあ、ベテランになればこういう患者さんの話を聞きながら、必要な情報を集めていくこともできるんですが、忙しい医者や若い医者は、なかなか問診が進まなくて苛々してきます。まずは医者の質問に答えてあげてください。

何回か診察を受け、お互い気心が知れるようになったら、面白いエピソードや雑談も会話の潤滑油としていいものです。しかし初めての診察時や特にこちらの病状を的確に分かって欲しい時は、医者の発する質問に短い言葉で的確に答えるように心がけてください。聞かれた以外に伝えておきたいことがあれば、医者からの問診が終わった後で、付け加えるといいでしょう。